米田和美

いつもと違った感覚

2013年10月、宇都宮。ジャパンカップ・オープンレース前日。

「まだ少し痺れてるんですよ・・・たまに腕がビリっとして・・・。」

4ヶ月ぶりに会った米田はそう言って、わざわざシャツの襟元をめくって鎖骨の治療痕を見せた。

「痛みは無いんですけど」

6月、大分での全日本選手権。少しでも遅れを取り戻そうとした米田は下りを攻めた。自転車を始める前にアルペンスキーをやっていたおかげで、ダウンヒルには自信があった。しかし、濡れてスリッピーな路面と、遅れた事の焦りが、いつもの米田の感覚を少し狂わせていた。


2013年全日本選手権TT スタート前、集中力を高める米田

人生初の落車、鎖骨骨折。

「落車した瞬間は、転んだって自覚が無かったんです。まだコーナーリングしてるつもりでした。顔を地面に擦ったところで初めて落車したんだって気付いたんです」

下りが得意とは言え、いつもならリスクを冒してまで攻める事は無いと米田は言う。しかし、この全日本では攻めなければならない理由があった。

「大分の2週間前にあったタイムトライアルの全日本選手権で入賞を逃してしまって・・・。本当に悔しくて、レースの後初めて泣きました。新しいフレームまで使わせてもらったのに・・・。だから、ロードで結果を出そうって思ってたんです。今までで最高の集中力でレースに臨みました」

その言葉通り、大分のスタートラインに並んだ米田はいつもより緊張していたように見えた。その事を聞いてみると「わかりました?」と言って、照れ隠しのような笑顔を見せた。


2013年全日本選手権ロード スタートラインに並んだ米田の表情は、心なしか硬かった

「確かに、いつもと違った感覚でした。それはやはり全日本だったからなんでしょうね・・・。でも、あそこで攻めなければ完走さえ難しくなるとわかっていたので、迷いは無かったです」

応急処置を施された米田は、地元である札幌に戻って病院に入院。手術せずに治す方法もあったが、迷わず短期間で自転車に乗れる治療法を選んだ。

「手術してプレートを入れる事は即断でした。本当は傷を残すような事はしたくなかったんだけど、そんな事してたら10月のジャパンカップに間に合わなくなるし・・・。それにエントリーしてあるレースに穴を空ける事はしたくなかったんです」

→Next 落車、負傷からの復活

1・

このページのトップへ