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2024年1月30日:トランスジェンダー選手の今後と女子クラスの考察

2023年の7月、国際自転車競技連合(UCI)の理事会がトランスジェンダーの女性アスリートに対して、現行のUCI規則を改定することを決定した。この決定については後日、日本自転車競技連盟(JCF)が規則改定を公式発表している。

今後、UCIの規則では「今後(男性として)思春期を過ごした後に性別移行したトランスジェンダー女性のアスリートは、UCI国際競技大会日程にある女子競技大会においては、すべてのカテゴリーに関して、各種種目への参加が禁止されることになる。」と改定された。

更に「国際マスターズ大会 (UCIサイクリング・フォア・オール国際日程及び UCI競技大会(UCI グランフォンド・ワールドシリーズ、 UCI グランフォンド世界選手権大会、 UCI グラベル・ワールドシリーズ、UCI グラベル世界選手権大会及び UCIマスターズ世界選手権大会)におけるレース)に関しては、男子カテゴリーは男子/オープンと改称され、女子大会への参加条件を満たさないあらゆるアスリートに制限なく出場を認められる」ことになる。

20230803:JCFより配信
https://jcf.or.jp/news-74344/?category=jcf

2023/08/03 トランスジェンダーアスリートに関するUCI規則改定
新規則では、思春期以降に性転換を行ったアスリートがUCI国際カレンダーに掲載されている大会で女性カテゴリー種目に参加することができなくなります。また、マスターズの大会では男性カテゴリーの名称が「男子/オープン(MO)」カテゴリーに変更され、女性カテゴリーに該当しないすべてのアスリートがMOカテゴリーに参加できるようになります。
※以上引用終わり


このように自転車レースの世界においても、このトランスジェンダー選手の扱いについて、しっかりとした差別でなく「区別」を考えるためにセミナーを開催したりして、理解を深めながらクラスの分け方を考慮している。

そもそも、トランスジェンダーとは?と思う方も多いと思う。その辺りから自分の勉強も兼ねて再確認をしていきたい。

トランスジェンダーとは「性的自認と身体的性が異なる人」をいう。ようは「心の性」と「身体の性」が一致していない人のこと。例えば、身体的特徴は男性であっても心の性は女性だと認識している人のことを「MtF」、逆に身体的特徴が女性で心の性が男性である人のことを「FtM」と言います(MtFは「Male to Female」の略で、FtMは「Female to Male」の略)。

更に、トランスジェンダーのなかには「Xジェンダー」と呼ばれる性もあって、これは性自認が男性でも女性でもない、または男性でも女性の両方でもある人、また日によって性自認が異なる人、中性の人のことなどを言うようだ。

一方で「性同一性障害」という用語もある。こちらについては、性自認と身体的性が一致しないトランスジェンダーのなかでも、特に「外科的手術で、身体的特徴も自身の性自認と一致させることを望む症状」を持つ人のこと。ようはトランスジェンダーの中の1つの例となる。個人的には、この症状名に「障害」と入っているのには違和感があるのだが。

自転車選手の中にはカミングアウトしている、していないの違いはあれど、LGBTQ+選手はいる。この選手達のなかで身体の性と出場したいクラスの性別がイコールであれば、男性は男子レースに、女性は女子レースに出場することで問題はない。しかし、これが「心の性」と「身体の性」が一致していないトランスジェンダー選手となると、問題が発生する。どのような問題が考えられるのか?

ここからは実際に起こった事由を紹介したい。
The Washington Times 2023年5月2日の掲載WEB記事<https://washingtontimes.jp/2023/05/05/7708/>によると「女子プロ自転車競技で、男性として生まれたトランスジェンダー選手が増加し、上位に食い込むケースが増えていることから、女性選手らから不満の声が上がっている。」とし、実際にトランスジェンダー選手が上位に入ってしまうために、今までのような好成績が得られず引退を余儀なくされてしまうケースも紹介している。

その引退をすることとなってしまった選手のコメントとして「このような形で終えることはとても残念だ。もしルールを変えて女性のための女性のスポーツにしなければ、次の世代に女性スポーツは存在しない」と書かれているが、私がトランスジェンダーについて、「理解と区別」を進めていかなければならないと思ったのは、この点に尽きる。

ただでさえ世界的には勿論だが、日本では自転車レースにおいて女子カテゴリーは、まだまだ競技人口が少ないこともあって、男子と同等にレース開催を実施しているケースが少なくジレンマを抱えている。そんな状況で、元男性の身体能力を持ったMtFのトランスジェンダー選手が女子レースに出場し活躍することで、今まで女性の身体能力を持った選手同士で切磋琢磨していた競争が壊れてしまうのである。そして上位成績の獲得だけでなく賞金や賞品、場合によっては奨学金やスポンサー協賛の獲得にも関わってくる問題となる。よい証拠に、FtMのトランスジェンダー選手が男子レースに出場している例がナゼか無いことにも表れている。

女性アスリートで構成される権利擁護団体「女性スポーツ独立評議会(ICONS)」によると、現在、女子の有力自転車国際レースで活躍しているトランスジェンダー選手は50人になっているそうで「現時点で男性が女性のカテゴリーに参戦している競技は、自転車が最も多い」とのこと。

米国ではジェンダーについての取り扱いが日本以上にデリケートな扱いとなっており、この状況に問題提起をおこなうと多くの女性選手はスポンサーを失ったり、ソーシャルメディアで反発を招いたりすることを恐れて、公に発言することを控えているため、「この件に関して非常に動揺している選手はたくさんいる。ただ一つ言えるのは、声を上げたらどうなるのかが怖くて、何も言えないということだ」と窮状を訴えている、とWEB記事では伝えている。

では、日本ではどうするべきなのか?

日本は、MtFやFtMに関しては日本文化に根付いている側面がある。例えばMtFなら歌舞伎の女形があるし、FtMならば宝塚歌劇団があり、どちらも素晴らしい芸を披露し根強い人気がある。MtFについては「古事記」の「ヤマトタケル伝説」のなかで、クマソ征伐を成しえるために女装して敵の目をくらました、という逸話もあるほどだ。

そしてLGBTQ+については、長い歴史のなかで寛容だった時期もあるものの、明治に欧米から入ったキリスト教的な倫理のなかで差別される文化に変化してしまう。そこから、最近になって若干オープンにはなった事由もあるものの職業選択時などにおいて、まだまだ理解が必要な側面もある。これは「性同一性障害」の扱いにおいても同じように思う。

その中で、MtFおよびFtMトランスジェンダー選手達から意見をもらいながら、一目でわかるクラス分け=カテゴリー分けをして区別をおこなうことが先決と考えられる。

ちなみに先日、1月14日・15日に各国で開催されたシクロクロス・ナショナル選手権大会のうち、英国の選手権について女子は今までどおり「FEMALE(女性)とカテゴライズされている一方で、男子にあたると思われるクラスは「OPEN」表記となっていた。これは非常に判りやすい表記であり、トランスジェンダー男性や女性の自転車選手については、どれにエントリーするか?自然に誘導できるのではないか?と感じた。

上記のクラス分けを念頭に、あとは女子というカテゴリーで走るには、どのような規定をクリアにしなければならないか?と出来るだけ特例なく、はっきりと決めること。これについては、先に書いた先日発表のUCI規定に基づくところで線引きを設けるべきだと考える。

男性、女性だけでない様々な性別の分け方が、今後ベーシックになってくると思われるなかで、競技種目によって性別における身体的特徴によってクラス分けが必要な場合は、その権利はキチンと守られるべきではあるし、これから競技の普及にも大事な側面となる。トランスジェンダー選手達との意見を交わしながら、様々な特徴を活かしたクラス分けも、この機会に企画する必要もあるだろう。

テキスト:QNリーグ事務局・須藤むつみ

※参考資料:UCIがトランスジェンダーのアスリートの国際大会参加に関する規則を改定(2023年7月14日)

国際自転車競技連合(UCI)の理事会は、7月5日に開かれた臨時会議において、トランスジェンダー女性のアスリートが UCI 国際競技大会日程上の競技大会に参加する権利に関する現行の UCI 規則を改定することを決めた。

UCI理事会の会議はトランスジェンダーのアスリートが女子自転車競技大会に参加するための条件に関し UCI が主催した 6 月 21 日のセミナーに続いて開催された。このセミナーでは、トランスジェンダーおよびシスジェンダー(訳注:生まれ持った性別と心の性が一致しており、その性別に従って生きる人、すなわち、トランスジェンダーでない人)のアスリート、科学・法律・人権分野の専門家並びにスポーツ関係機関など様々な利害関係者がそれぞれの立場を発表することができた。

今後、(男性として)思春期を過ごしたあとに性別移行したトランスジェンダー女性のアスリートは、UCI国際競技大会日程にある女子競技大会においては、すべてのカテゴリーに関して、各種種目への参加が禁止されることになる。

国際マスターズ大会 – つまり、UCIサイクリング・フォア・オール国際日程及び UCI競技大会(UCI グランフォンド・ワールドシリーズ、 UCI グランフォンド世界選手権大会、 UCI グラベル・ワールドシリーズ、UCI グラベル世界選手権大会及び UCIマスターズ世界選手権大会)におけるレース – に関しては、男子カテゴリーは男子/オープンと改称され、女子大会への参加条件を満たさないあらゆるアスリートに制限なく出場を認められることになる。

UCI 理事会が知り得た現在の科学的知見では、少なくとも 2 年間の性別適合ホルモン療法により、1リットルあたり2.5ナノモルの血漿テストステロン濃度を目標としても、男性の思春期中におけるテストステロンの利点を完全に取り除く上で充分だとは確認されていない。さらに、性別適合ホルモン療法に対する反応には著しい個人間変動があり、そのため、当該治療の効果について正確な結論を導き出すことはさらに難しい。現在の科学的知見からすれば、手足の骨の形状や配置などの生体力学的要素はトランスジェンダー女性のアスリートにとって永続的な利点となるかも知れない可能性も否定することができない。

こうした事実確認を踏まえて、UCI 理事会はトランスジェンダーのアスリートがスポーツ競技大会に参加できることの利益を、保護すべきクラスだと見なされている女子カテゴリーのアスリートの利益と比較検討した。こうした背景において、UCI理事会は、残存する科学的不確実性を考慮の上、女子クラスを保護し、機会均等を確保するための措置が必要だとの結論に至った。

トランスジェンダー女性の自転車競技者において性別適合ホルモン治療がパフォーマンス指標に与える影響についての現在の科学的知見に関する更なる情報は次を参照されたい:グザヴィエ・ビガール教授「トランスジェンダー女性の自転車競技者における性別適合治療がパフォーマンス指標に与える影響についての現在の知見」、2023年5月更新。

新規則は 2023 年 7 月 17 日に発効する。新規則は科学的知見の発展に伴い将来的に変更されることもある。この点を踏まえ、UCI は、性別移行ホルモン治療を受けている高度な訓練を受けたアスリートの身体能力の変化を調査することを目的とした研究プログラムへの共同出資について、国際スポーツムーブメントの他のメンバーとの協議を開始することになる。

ダヴィッド・ラパルティアンUCI会長は次のように述べている。「何よりも第一に UCIが再確認したいのは、サイクリングは、スポーツ競技、レジャー活動または交通手段として、万人に開かれていることであり、その中には私たちが他の人々に対すると同様にこのスポーツに参加することを奨励しているトランスジェンダーの人たちも含まれている。また、UCI としては、出生時に割り当てられた性別がなんであれ、個人の性自認に対応した性別を選ぶ権利を尊重し、支援することを改めて確認しておきたい。しかし、UCI には、何よりも、あらゆる自転車競技大会において機会均等を保証する義務がある。この至上命令こそが UCI をして、現在の科学的知見は、トランスジェンダー女性のアスリートとシスジェンダー女性の参加者の間でこうした機会均等を保証するものではないことから、予防的措置として、トランスジェンダー女性に女子カテゴリーで競技する許可を出すことはできないとの結論に導いた」

2023/08/03:JCFより配信
トランスジェンダーアスリートに関するUCI規則改定

2023年7月17日にトランスジェンダーアスリートに関するUCI規則が改定されましたのでお知らせいたします。
プレスリリース(英語)※UCIからの通達文章
プレスリリース(和訳)※JCFからのPDFファイル形式

新規則では、思春期以降に性転換を行ったアスリートがUCI国際カレンダーに掲載されている大会で女性カテゴリー種目に参加することができなくなります。また、マスターズの大会では男性カテゴリーの名称が「男子/オープン(MO)」カテゴリーに変更され、女性カテゴリーに該当しないすべてのアスリートがMOカテゴリーに参加できるようになります。
UCI規則 第1部 改定(対訳版)※PDFファイル
UCI規則 第13部 改定(原文)※PDFファイル

JCF規則はその第1条において、「UCI規則のうち、この競技規則に明文の規定のないものは、UCI規則を準用する」としておりますので、今後、国内でもトランスジェンダーアスリートにはこのUCI規則が適用されます。


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