5.第59回全日本アマチュア自転車競技選手権大会・1990年世界選代表選考大会
トラック競技境川、ロード、プロ・アマ混走の宇都宮


国際ロードが終了して本年度の国内主要ロードレースのカレンダーは、6月10日の第59回全日本アマチュア選手権ロードレース大会である。本年の選手権大会は、日本で初開催の世界選手権の代表選手選考会を兼ねての開催でトラック大会は1週間後にスケジュールされていた。

コースは世界選手権の開催コースと同じ場所である「宇都宮森林公園周回コース」。当時のアマチュアトップクラス全員がエントリーしていた。世界選手権はプロの部も同時に開催されるため、すでにプロに転向して代表に決まっていた7名の選手と競輪選手3名が別カテゴリーで同時に参加のレースが日程組まれていた。

■ロードレース経過
選考会を兼ねた大会は、定刻、10時アマユア選手権男子レースがスタート(115名)、30秒遅れでプロのレースが始まり、さらにこの後3分で女子(30名) がスタートした。特別規則で途中、混走する事態になっても順位の決定はカテゴリー別とすることになっている。5時間に及ぶレースと予想されていた175km のレースは世界選代表の座がかかっているためスタート後、ペースが上がらず、1周回過ぎての登坂コース入口のスタート後約2kmで、早くも数名のプロ選手に追いつかれ、後は混走でのレース展開となった。

周回距離14・5kmの第1周回早くも飛び出した先行グループ5~10人の中で、ラップを取ったのは胡井良太(日本鋪道)選手。23分07秒(時37・6km)である。

追いついたプロ選手は3名で(高橋松吉・橋詰一也=ボスコ、三浦恭資=マエダ)アマチュアの9名とトップ集団が4周まで速いペースで展開をコントロールしたため追っている集団で付いていけない選手が後退してのレースとなった。

4周目の中盤から先行グループでの抜け出し、揺さぶりが激しく5、6周回を終了した時点ではプロ3名とアマチュア6名(大石一夫、橋川健=シクロウネ、山田隆博=ボスコ、藤野智一=ボスコ、村岡勉=マエダ、三谷寛志=ブリヂストン)の9名にしぼられていた

プロを含め実に5名がエプソン・ボスコ所属の選手でまさにボスコ全盛の時代であった。このあと三谷が遅れ、集団を抜け出した沼田雄一(東北学院)菊田潤一・国末明(シマノ)と第2周団を形成、トップグループを追っていた展開となっていた。

残り2周すでにスタートして4時間、コース上には32名の選手が走っている状況でコースの難易度の高さを物語っていた。11周(残り2周回)に入り三浦恭資がスパートした。登坂に差し掛かったところでは後続を約300m引き離し独走態勢に持ち込むかに見えたが、橋詰一也が登り頂上で追いつきプロの部は2名のマッチレースとなった。しかし経験で勝る三浦がゴールトップ、貫禄を示した。登りで離された大石一夫はよく粘り後続の追い上げを抑え3位でゴール。アマチュアでの優勝。宿願の初タイトルに輝いた。

プロ3位には後半持ち直した高橋松吉がベテラン森幸春(日直)の追い上げを押さえて表彰台を確保した。アマチュアの部2位争いは4名のスプリント勝負に持ち越された、ゴールとなっている厚生年金会館前直線300mからの激戦は本レース最大の見所で、若手のホープで急速に力をつけていた橋川健が村岡勉、藤野智一、山田隆博を僅差で押さえトップでゴールし代表の座を決定した。

女子の選手権者決定と世界選手権代表を決めるレースは、72・5km(5周回)で行われた。壁のような標高差が女子選手には厳しく、1周回の走行で早くも堀弘乃(静岡いすず)当麻愛(シマノ)三田村由香里(ミヤタ)の3名がトップで2位以下を1分30秒アヘッドしての通過。その後、三田村が落車のアクシデントで遅れ、堀、当麻の争いになってしまった。4周目の森林公園の入口では本年シーズン幕開け早くも1勝で優勝候補の一翼と予想されていた当麻選手が、ベテランで国内No.1の実力者、昨年11月から始められ、3月初旬まで5戦のシリーズ戦で総合優勝した堀弘乃選手を13秒離して独走、そのまま押し切るかに見えたが、国道293号の平坦路でスパートした堀選手があっという間に先行の当麻選手を捉えた。その後、最終回の山岳コースをお互い
ゆずらず併走を続けゴール勝負に持ち込まれた。

「早めに踏み込んだのが正解でした」ゴール後、スパートの時期を相手の動きに合わせ、すばやくギアシフトで勝負に出た堀選手の言葉は印象的で今でも記憶に残っている。当麻選手に反応の隙を与えなかったデッドヒートのあっけない幕切れであった。


世界選手権代表選考会場になった、宇都宮
厚生年金会館横:スタート地点の看板


背後に古賀志山の山岳コースが控えている
年金会館横のスタート前、準備の役員

■ロードレースリザルト
男子上位
175km(14.5km×12L) 35.5km/h
1位 大石一夫(ボスコ)   4”55:27.08
2位 橋川 健(シクロウネ) 4”55:27.08
3位 村岡 勉(マエダ工業) 4”55:27.08
4位 山田隆博(ボスコ)
5位 藤野智一(ボスコ)
6位 沼田雄一(東北学院大)

女子上位
72.5km(14.5km×5L) 24㎞/h
1位 堀 弘乃(静岡いすず) 2”18:04.35
2位 当麻 愛(シマノ)   2”18:04.81
3位 村上純子(長崎)    2”18:35.74
4位 三田村由香里(ミヤタ)
5位 佐々木美江子(奈良)
6位 河西ひろみ(女・日体大OB)

プロ
175km  35.7㎞/h
1位 三浦恭資(サイクルワールド)4”54:16.
2位 橋詰一也(ボスコ)       +0.00.
3位 高橋松吉(ボスコ)       +2.46
4位 山田隆博(ボスコ)       +9.47
*完走4名/出走10名

■トラックレース大会
=世界に挑戦する代表選手選考会(トラック)=

1990年6月16~17日 山梨県境川自転車競技場で開催された。山梨での全日本は二度目で国体開催のため建設された専用の高速トラックで1962年(国体の翌年)に開催されている。この競技場で出された国体の成年男子4km団体追い抜き競走のタイム4分27秒74は、2006年の国体まで破られていない。福島県の日本大学の学生選手で出した記録である。

この年の大会は、国内チャンピオンを決定することは勿論であるが、国内で初めての本格的な室内自転競技場として建設された前橋の競輪場(グリーンドームという名称に決まっていた)で開催される世界選手権トラック競技会の代表選手選考会と中国の北京で行われる第11回アジア大会の代表選考会を兼ねていた。

アマチュアの部の代表をかけてエントリーのメンバーは、当時のトラック国内トップクラス全員が名を連ねマスコミの報道も事前に行き届いている状況でかなりの観衆を集めた。

第一日の決勝種目のタイムトライアルは当時、男女とも1kmで設定。男子では、一昨年のソウル五輪代表を逃したが、昨年のこの大会優勝、この種目の国内第一人者の地位を確保した小嶋敬二(日本大学)選手が1分06秒53の好タイムで二連覇。文句なく代表の座を獲得した。

女子は競技を始めて2年強の大家千枝子(日本体育大学)が初優勝。記録的にはソウル五輪の代表となった橋本聖子選手の日本記録1分14秒30およびこの種目国内女子の実業団記録1分15秒45を持っている鈴木裕美子選手のタイムにはおよばなかった。

スプリントは、早稲田の1988年五輪代表で4年生になった豊岡弘が準決勝でタイムトライアル優勝の小嶋選手を下し、決勝では昨年のチャンピオン三和英樹(日本大)にリベンジ、全日本三度目の栄冠に輝いた。

女子はこの種目全日本に取り入れられてから日が浅いが(1986年より)タイムトライアルの優勝者大家千枝子が、鈴木 裕美子の二連覇3回目の優勝を阻み初優勝で二冠のビックタイトルを獲得した。

■1990年世界選手権日本代表選手団
監 督  藤原英興(早稲田OB=強化副本部長)
コーチ  高橋昭次(法政大OB=    委員)
 〃   福原広次(日本大OB=    委員)
 〃   斧 隆夫(ナショナル自転車=   委員)
      以下略
男子選手 
小嶋敬二(日本大) 豊岡 弘(早稲田)
三和英樹(日本大) 高橋隆晃(早稲田)
安藤康洋(ミヤタ) 江原政光(法政大)
井上勝史(高校生) 斎藤登志信(高校生)
山田晃也(日本大) 稲村成浩(高校生)
古本清文(三信技研)塩原正長(早稲田)
潮地明仁(日本大) 坂本盛靖(日本大)
加藤裕一(山崎運輸)後藤政義(日本大)
胡井良太(日本鋪道)水澤耕一(日本大)
吉田康弘(日本大) 宮本文晴(日本大)
岸原 薫(シマノ) 今中大介(シマノ)
柳原満彦(日本大) 大越 太(日本大)
大石一夫(ボスコ) 村岡 勉(マエダ)
山田隆博(ボスコ) 藤野智一(ボスコ)
藤田晃三(BS)  国末 明(シマノ)
菊田潤一(シマノ) 沼田雄一(東北学院)
三谷寛志(BS)  鳥海祐司(徳島県庁)
班目真紀夫(日本大)佐藤一芳「中央大」
大野直志(日本鋪道)鈴木光広(BS)
以上38名 女子は大家千枝子、鈴木裕美子
阿部和香子、当麻愛、以下9名が選出された。

■第11回アジア大会日本代表選手団
監 督 藤原英興(早稲田OB=強化副本部長)
コーチ 高橋昭次(法政大OB=    委員)
 〃  福原広次(日本大OB=    委員)
 〃  斧 隆夫(ナショナル自転車=   委員)
   荒井和弘(東北学院OB=   委員)
*男子
小嶋敬二(日本大) 豊岡 弘(早稲田)
三和英樹(日本大) 江原政光(法政大)
斎藤登志信(高校生)宮本文晴(日本大)
加藤裕一(山崎運輸)吉田康弘(日本大)
水澤耕一(日本大) 岸原 薫(シマノ)
今中大介(シマノ)
大石一夫(ボスコ) 村岡 勉(マエダ)

*女子
大家千枝子(日本体育大)
鈴木裕美子(パルコ)
阿部和香子(マエダ工業)
当麻  愛(シマノ)
堀  弘乃(静岡いすず自動車)

著者:南 昌宏

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